【はじめに】
現在アラフォーの私は、約20年前の大学入学時に初めてノートパソコンを購入した。当時はパソコンというものがどういうものなのか、何ができるものなのか全くわからず、取り急ぎ「基本的な入門モデル」を購入した。大学を卒業し社会人になると、お金に少し余裕ができるとともに「音楽や映像をたくさん保存できるもの」「ストレスを感じることなく楽しめるもの」を購入した。そして今では、場所を問わずどこでも使用したい衝動にかられ、何より「軽量なもの」を求めている。
同じノートパソコンという製品でも、消費者の思考や置かれている環境、時期(私にとっては大学入学時や企業への入社時)により、求められる属性が異なる。それゆえマーケターは、購入したいと考える消費者のニーズやウォンツを見極め、「誰が当該製品の真のお客様なのか」を見極める必要がある。
ところで、マーケティング業界では、久しくSTP(S:セグメンテーション、T:ターゲティング、P:ポジショニング)という概念が用いられてきた。市場を細分化し自らが勝てる領域を探し出すとともにターゲットを決定し、そのターゲットの頭の中にうまくポジショニングしていく。ここに記すことは簡単だが、実行することは難しい。いわんや、子育て関連製品にとってはとくに難しい。何しろ、たとえば粉ミルクなどはターゲットの製品に対する使用期間が短く、メーカー側からするとターゲットが短期間のうちに、どんどん代わっていくのである。このように、マーケティング・マネジメントがとくに難しいと考えられる子育て関連製品市場を念頭に、本レポートでは「ベビーカー市場」を事例として“月齢別マーケティングの重要性”について記したい。
【ベビーカー市場】
国内ベビーカー市場は売上高百数十億円規模と言われているが、長らくコンビ、アップリカが独占してきた歴史がある。しかし2000年代半ば以降、多くの外資メーカーが市場に参入し、競争はますます激化している。
ところでベビーカーは、購入者と使用者が異なる代表的な製品でもある。もちろん、購入者は親をはじめとした大人であることが多い。一方、使用者は赤ちゃんをはじめとした子どもである。親をはじめとした大人は、愛おしい子どもを乗せるベビーカーであるため、必要以上に製品の属性等を情報探索するだろう。ある種、友人に対するプレゼントを購入するときの購買行動と似ているかもしれない。それゆえ、メーカーは消費者が(ベビーカーではとくに購入者が)、どのような製品属性を望み、重視しているのかを知る必要がある。
【調査】
弊社コズレ子育てマーケティング研究所では、2018年1月22日(月)から1月24日(水)にかけて、「ベビーカー市場」の現状についてインターネットを用いたアンケート調査を行った。調査対象は主に妊活中、および月齢ごとに妊娠1ヶ月から妊娠11ヶ月のお子様を持つママパパ(1歳以上のお子様を持つママパパも若干名含む)1,817名で、ベビーカー購入経験、購入時期、購入商品、重視属性、各企業認知、各企業イメージ等を質問した。また、今回の分析に用いたデータは全被験者(1,817名)のうち「親戚・知人・友人などから譲り受けた」「ベビーカーを購入していない」と回答した被験者を除く764名を抽出し、かつ、その764名の中から妊活中(4名)、生後6か月以上(22名)の被験者を除いた738名のものである。
【分析と結果考察】
ここでは、1つ興味深い分析結果を紹介したい。
我々が関心あるのは、ベビーカーを購入したママパパ全体の、購入時に重視した属性ではない。お子様の月齢ごとにママパパを区分したときの、その区分されたグループごとのママパパが重視した属性である。つまり、ママパパがベビーカー購入に対し重視する属性は、購入時における子どもの月齢によって異なるのかどうかである。
そこで、妊娠初期(妊娠1~4ヶ月)、妊娠中期(妊娠5~7ヶ月)、妊娠後期(妊娠8~10ヶ月)、生後0~2ヶ月、生後3~5ヶ月と5区分したものと、ママパパがベビーカー購入時に最も重視した属性(軽さ、安全性、畳みやすさ、デザイン、価格等)18つを対象にコレスポンデンス分析を試みた。
まず、表1をご覧頂きたい。表1は今回の全分析対象者(738名)が、ベビーカー購入時に最も重視した属性の上位10項目である。最も重視されたのは「軽さ」(159名、21.5%)で、次いで「安全性」(128名、17.3%)、「価格」(85名、11.5%)、「操作性(車輪の小回りが利く)」(70名、9.5%)であった。
このような結果から、ベビーカー購入を考えるすべてのママパパに等しく「軽さ」や「安全性」を訴求すれば良いのだろうか。
表1 購入時に最も重視した属性(*上位10属性を抜粋)
次に、図1をご覧頂きたい(注:たとえば図1の妊娠初期は妊娠1~4ヶ月、生3~5は生後3~5ヶ月の子を持つママパパのことである)。図1はコレスポンデンス分析の結果であり、お子様の月齢ごとに重視した属性が異なるのかを理解するためのものである。また、コレスポンデンス分析の結果は、似た反応を示すもの同士が近辺に分布されると言われている。
妊娠初期に購入した被験者は「属性A」を、妊娠中期に購入した被験者は「属性B」を、そして子どもが産まれる直前の妊娠後期に購入した被験者は「属性C」「属性D」「属性E」を重視していたことが分かる。いざ子どもが産まれた生後0~2ヶ月に購入した被験者は「属性F」「属性G」「属性H」を、生後3~5ヶ月に購入した被験者は「属性I」を重視していたことが分かる。
このような結果から、妊娠初期→妊娠中期→妊娠後期→生後0~2ヶ月→生後3~5ヶ月と、子どもの月齢とともに重視した属性が異なることが理解できる。
図1 コレスポンデンス分析
【まとめ】
本調査結果から、子どもの月齢ごとにママパパが重視するベビーカーの属性は異なることがわかった。
とくに、妊娠初期に購入した消費者はベビーカーが必要になることが分かってから日が浅く、ベビーカーそのものに関する明確な何かを調べるというよりは、大まかに「属性A」を重視する傾向がある。妊娠中期に購入した消費者は具体的な製品属性というより抽象的な「属性B」を重視する傾向がある。妊娠後期に購入した消費者はより使用について真剣に考えるようになり「属性C」とともに具体的な製品属性である「属性D」や「属性E」を重視する傾向がある。そして、生後0~2ヶ月に購入した被験者は、明確に使用シーンをイメージして「属性F」や「属性G」「属性H」といった具体的な製品属性を重視する傾向がある。生後3~5ヶ月に購入した被験者は、実際に日々大きくなる子どもを考慮し「属性I」を重視する傾向がある。
ママパパがベビーカーを購入する際に重視する属性は上記のような結果であったが、これはメーカーや小売業者のマーケターにとっても大きな示唆がある。つまり、子育て関連製品をマーケティング・マネジメントする際に常に問題となる「消費者の商品検討期間が短い」「ターゲットとなる消費者が一定期間で入れ替わる」等に対処可能となるからである。すなわち、適時適切なマーケティング施策(たとえば、コミュニケーション等)がとれるようになるのである。ターゲットを単に「妊娠期」などといった大まかな捉え方では、彼らの真のニーズやウォンツを見誤る可能性が大きく、たとえばコミュニケーション施策では子どもの月齢別にターゲットを設定することで、より適切なメッセージを届けていくことが可能になるのである。
おそらく多くのベビーカー・メーカーは、いついかなる内容(形態)でコミュニケーションをママパパに向けて行うべきか悩んでいることだろう。1つのヒントとして子どもの月齢別に思考する本調査結果が活かせるのではないだろうか。
ベビーカー・メーカーの多くは、果たして上記のような適時適切な訴求内容に即してマーケティング・マネジメントを実践しているだろうか。それぞれの消費者が、いかなるタイミングでどのような製品属性を重視しているのか認識しているだろうか。メーカーや小売業者にとって、より適時適切なマーケティング・マネジメントを実践することは、非常に特殊性の高い子育て関連製品市場ではとくに重要になるのである。
以上、子育て関連製品をマーケティングする際に、セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング等で悩まれている方、コミュニケーション等、適時適切なマーケティング施策の実施に悩まれている方等、ぜひともコズレ子育てマーケティング研究所にご連絡ください。月齢別コミュニケーション内容の策定、月齢を絞ったプロモーション手段の提供をはじめとした各種調査の実施はもちろん、分析・提案・コンサルティング業務まで一連のマーケティング支援をさせて頂きます。また、A~Iの具体的属性名など、本調査の詳細レポート等はお気軽にお問い合わせください。
(コズレ子育てマーケティング研究所 飯野)
【出典の記載についてのお願い】
調査結果を利用する際は出典を記載してください。出典の記載例は以下の通りです。
出典:「ベビーカー業界から見る月齢別マーケティングの重要性に関する調査(株式会社コズレ)」 http://www.cozre.co.jp/blog/1146/
(コズレ子育てマーケティング研究所 http://www.cozre.co.jp/blog/)
(cozre[コズレ]マガジン http://feature.cozre.jp/)