1.はじめに
出産後の女性の身体には様々な変化が見られるが、その一つに「マミーブレイン」と呼ばれる現象がある。この言葉は医学的用語ではなく、一般的に産後の女性に急激に起こる記憶力や集中力の低下の症状を指し、日常生活や意思決定に大きな影響を与えることがある。
本レポートでは、特にマミーブレインが「購買行動」に及ぼす影響に着目して調査を行った。妊娠や出産を経験した母親たちの購買行動変化を分析することで、彼女たちが直面する課題やニーズに対する理解を深めることを目指す。
2.調査概要
調査主体:コズレ子育てマーケティング研究所
調査方法:インターネット・リサーチ
調査対象:0歳以上の子を持つ女性709名
調査期間:2024年7月29日(月)〜2024年8月19日(月)
3.結果・考察
約半数のママが「直近1ヶ月で記憶力・集中力ともに低下している」と回答
0歳以上の子を持つ女性709名のうち、直近1ヶ月で記憶力・集中力がともに低下したのは54.30%(385名)、記憶力・集中力がともに低下していないのは45.70%(324名)であった(図1)。
図1 記憶力・集中力の低下経験(SA;n=709)
記憶力・集中力ともに低下したと感じているママ達は、「忘れ物が増えたとき」「今していた行動を忘れたとき」などに記憶力が低下したと感じ、「複数のことを同時にできないとき」「物事を深く考えることができないとき」などに集中力の低下を感じることが分かった(図2、図3)。
図2 記憶力の低下を感じるとき(MA;n=385)
図3 集中力の低下を感じるとき(MA;n=385)
この結果を踏まえ、マミーブレインが購買行動に与える影響について、①衝動買いの増加、②重複購入の増加、③既知商品に頼りやすくなる、④広告の影響を受けやすくなる、⑤オンラインでの買い物の増加、の5つの仮説を立てた。その際、「記憶力・集中力ともに低下しているグループ(385名)」と「記憶力・集中力ともに低下していないグループ(324名)」とに分け比較し、記憶力・集中力の低下の有無に加え、子供用品と自分自身のものを購入する際、購買行動にどのような違いが生じるかについて考察した。
仮説① 衝動買いの増加
記憶力・集中力ともに低下した場合、子供用品では34.80%、自分自身のものでは10.90%が「衝動買いが増えた」と回答し、記憶力・集中力ともに低下していない場合(子供用品:27.46%、自分自身のもの:7.40%)に比べ割合が高いことが分かった。また、記憶力・集中力の低下にかかわらず、自分自身のものより子供用品を衝動買いが増加しており、自分自身のものに関してはむしろ減少傾向にあった(図4)。
図4 衝動買い増減の内訳
また、「衝動買いが増えたのは店舗での買い物ですか、それともオンラインでの買い物ですか。」という質問に対しては、記憶力・集中力ともに低下している場合は、そうでない場合に比べ、「店舗とオンラインの両方」での買い物において衝動買いが増える割合が高いことが分かった(図5)。
図5 衝動買いが増えた買い物場所
仮説② 重複購入の増加
記憶力・集中力ともに低下した場合、子供用品では7.27%、自分自身のものでは3.89%が「重複購入が増えた」と回答し、記憶力・集中力ともに低下していない場合(子供用品:3.08%、自分自身のもの:1.54%)とほとんど差がなく、衝動買いに比べ、記憶力・集中力の低下が重複購入の増加に与える影響は小さいことが分かった(図6)。
図6 重複購入増減の内訳
仮説③ 既知商品に頼りやすくなる
記憶力・集中力ともに低下した場合、子供用品では34.80%、自分自身のものでは13.24%が「すでに知っているメーカー/ブランド品を買うことが増えた」と回答し、記憶力・集中力ともに低下していない場合(子供用品:26.85%、自分自身のもの:5.55%)に比べ割合が高いことが分かった。また、記憶力・集中力の低下にかかわらず、自分自身のものより子供用品において既知商品の購入が増加している(図7)。
図7 既知商品の購入増減の内訳
既知商品の購入が増加した理由として、「安心感がある」「使い慣れている」「リスクを避ける」「愛着や信頼」といった項目が、記憶力・集中力低下の有無や子供用品か自分自身のものにかかわらず上位を占めた(図8)。
子供用品の増加理由割合に注目してみると、記憶力・集中力ともに低下している方がそうでない場合に比べ、「新しい商品に対する不安や失敗のリスクを避けるため」「新しい商品を調べる時間や手間を省きたいから」「考えるのが面倒だから」と考える割合が高く、マミーブレインによる購買行動の変化と言える。
自分自身の物の増加理由割合に注目してみると、記憶力・集中力ともに低下している方がそうでない場合に比べ、「その商品やブランドへの愛着や信頼が強いから」の割合が「考えるのが面倒だから」の割合より高いという特徴がある。マミーブレインの影響を受けているママたちは、愛着や信頼が強い商品を購入することで、何らかの安心感を得ているのかもしれない。
図8 既知商品の購入が増えた理由
仮説④ 広告の影響を受けやすくなる
記憶力・集中力ともに低下した場合、子供用品では27.01%、自分自身のものでは9.35%が「広告に影響されて購入することが増えた」と回答し、記憶力・集中力ともに低下していない場合(子供用品:14.81%、自分自身のもの:3.70%)に比べ割合が高いことが分かった(図9)。
図9 広告の影響増減の内訳
また、記憶力・集中力の低下にかかわらず、自分自身のものより子供用品において広告の影響が増加している。情報源としては、記憶力・集中力の低下にかかわらずInstagram上の広告に影響される傾向にある(図10)。
図10 影響を受けた広告の情報源
仮説⑤ オンラインでの買い物の増加
記憶力・集中力ともに低下した場合、子供用品では43.89%、自分自身のものでは15.32%が「オンラインでの買い物が増えた」と回答し、記憶力・集中力ともに低下していない場合(子供用品:30.55%、自分自身のもの:11.72%)に比べ割合が高いことが分かった。また、記憶力・集中力の低下にかかわらず、自分自身のものより子供用品においてオンラインでの買い物が増加している(図11)。
図11 オンラインでの買い物増減の内訳
子供用品と自分自身の物をオンライン購入が増えた理由を示したのが以下である(図12)。記憶力・集中力ともに低下している場合はそうでない場合に比べ、「24時間いつでも購入できる」「店舗に行くのが面倒だから」などの理由でオンライン購入が増えたと回答している割合が高い。マミーブレインの影響を受け、「買い忘れが発生した場合」や「店舗への買い物に集中できない場合」などは、オンライン購入に頼るのかもしれない。
図12 オンラインでの買い物が増えた理由
4. おわりに
マミーブレインにより、①衝動買いの増加、③既知商品に頼りやすくなる、④広告の影響を受けやすくなる、⑤オンラインでの買い物の増加といった購買行動の変化が生じること、そして自分自身のものより子供用品を購入するときにより傾向が強くなることが分かった。
これらの結果を踏まえ、企業がマミーブレインに対応した広告コミュニケーションをどのように展開するかが重要な課題となる。短期的な利益を追求するスタンスも一つの選択肢だが、それに伴う顧客満足度の低下やブランドイメージの悪化といったリスクを考慮する必要がある。
そこで、我々は「マミーブレインに寄り添った親切な供給者」としての企業スタンスを提案する。シンプルで分かりやすい情報提供や、記憶力・集中力の低下を補うようなサポートを通じて、消費者の信頼を築き、長期的なブランドロイヤリティを育むことが、結果的に持続可能な成長をもたらすと考える。
(子育てマーケティング研究所 村尾)
【出典の記載についてのお願い】
調査結果を利用する際は出典を記載してください。出典の記載例は以下の通りです。
出典:「マミーブレインが購買行動に及ぼす影響に関する調査(株式会社コズレ)」
https://cozre.co.jp/blog/13043
(子育てマーケティング研究所 http://www.cozre.co.jp/blog/)
(cozre[コズレ]マガジン http://feature.cozre.jp/)