1.はじめに
近年、核家族化や晩婚化等の理由により、妊娠や出産、産後の育児において、自分の親などの身近な人の助けが十分に得られないママが増えていることが課題になっている。
国はこの課題に対応するため、妊娠期から子育て期にかけての切れ目のない支援のひとつとして「産後ケア事業」を行ってきた。これまで、ママが産後ケアを受けるには所得制限や条件が設けられていたが、こども家庭庁により利用要件を撤廃する動きがある(※1)。
産後ケアの重要性や関心が高まる中、注目されているのが「産後ケアホテル」だ。最近ではビジネスホテルの一室を活用した「産後ケアプラン」を提供しているホテルも増えつつある。助産師や保育士等が24時間常駐しており、専門家のサポートを受けながら授乳や沐浴の方法などを習得できる。また、産後の身体のケアもしてくれる。栄養バランスのとれた食事の提供や睡眠時間の確保からスパでのリラクゼーションまで、サービス内容は多岐に渡る。
本レポートでは、そんな産後ケアホテルの認知度や利用実態について報告する。
(参考)※1 厚生労働省 産後ケア事業(妊娠・出産包括⽀援事業の⼀部)
https://www.mhlw.go.jp/content/10200000/001046316.pdf
2.調査概要
調査主体:コズレ子育てマーケティング研究所
調査方法:インターネット・リサーチ
調査対象:妊娠中および生後のお子さまをもつ女性
調査期間:2023年6月19日(月)~2023年7月6日(木)
有効回答者数:1,338名(末子妊娠中598名、生後のお子さま(末子)をもつ女性740名)
3.調査結果要約
・生後の子(末子)を持つママ「産後ケアホテルの認知率は約70%、利用は2%弱」
・利用者「第一子出産時。半数以上が妊娠中に検討を開始し、生後2ヶ月以内に利用」
・利用理由は「母体の回復」と「補助の後押し」
・非利用理由は「利用料金が高い」「近くに産後ケアホテルがない」
・産後ケアホテルを知らないママほど、他の産後ケアや育児制度を活用できていない
・妊娠中のママ「産後ケアホテルに最も求めるのは良質な睡眠の確保」
4.結果・考察
① 生後ママ「産後ケアホテルの認知は約7割、利用はわずか2%弱」
生後のお子さま(末子)をもつ女性(n=740)に、産後ケアホテルを知っているか、宿泊利用したことがあるかを聞いたところ、「知っており、宿泊したことがある」が1.76%、「知っているが、宿泊したことはない」が68.78%、「知らない」が29.46%となった。利用率はわずか2%弱であった。
図1 産後ケアホテルの認知と宿泊利用(SA、生後の子をもつ女性n=740)
② 利用者「第一子出産時。半数以上が妊娠中に検討を開始し、生後2ヶ月以内に利用」
現状、本調査においても被験者のうち実際に「産後ケアホテル」を利用したことのある女性は13名に留まった。その利用実態を聞いたところ、次のような結果となったので、参考までにご紹介したい(図2)。
図2 産後ケアホテル利用対象、検討開始時期、利用時期(SA、産後ケアホテル利用女性 n=13)
初めての育児に不安を抱えるママたちが退院後すぐに利用することで、母体の回復と、プロのサポートを受けながら育児をスタートするのを望んでいることがわかる。
③ 利用理由は「母体の回復」と「補助の後押し」
さらに利用者へ「産後ケアホテルを利用した理由」と「産後ケアホテルを利用した一番の理由」をそれぞれ聞いた。その結果、「産後ケアホテルを利用した理由」は「自治体の補助を受けられたから(53.85%)」「実母や義母に頼れなかったから(38.46%)」「リラックスするため(38.46%)」が主な理由として挙げられ、なかでも「自治体の補助」は利用を大きく後押ししていることがわかった(図3)。
図3 産後ケアホテルの利用理由(MA/SA、産後ケアホテル利用女性 n=13)
④ 非利用理由は「利用料金が高い」
一方で、「知っているが、利用したことはない(n=509)」と回答した被験者に「産後ケアホテル」を利用しなかった理由を聞いたところ、「利用料金が高いから(42.44%)」が理由として最上位にあげられた(図4)。
図4 産後ケアホテルを利用しなかった理由(MA、産後ケアホテル非利用女性 n=509)
リゾート型産後ケアホテルとしてメディアでも多く取り上げられているマームガーデン葉山(神奈川県)では、生後すぐから利用の場合、1泊あたり42,000円(10泊の場合)となっており、このようなリゾート型の産後ケアホテルのイメージが強いママにとっては、「利用料金が高い」「近くにない」という理由で、ハードルが高いものになっているようだ。
⑤ 産後ケアホテルを知らないママほど、他の産後ケアや育児制度を活用できていない
活用した産後ケアや育児制度について、「産後ケアホテル」の認知・利用度別に分析した結果が図5である。その結果、「知っており、宿泊したことがある(n=13)」と回答した被験者グループでは、産後ケアホテルだけではなく、4割弱が「里帰り」や「パートナーの育児休業」などを併用していることがわかる。
一方、「知っていたが、宿泊していない(n=509)」と回答した被験者グループでは、里帰りをした割合が46.17%と最も多くなっている。「知らない(n=218)」と回答した被験者グループでは、他の被験者グループに比べ、「パートナーの育児休業」と回答した割合が10.55%と最も低く、「とくに利用していない(39.45%)」と回答した割合が最も高くなっている。
このことから、産後ケアホテルを知らないママほど、他の産後ケアや育児制度を活用できておらず、育児に孤軍奮闘している実態が浮彫りとなった。これは、今後の産後ケア、および妊産婦とのコミュニケーションにおける重要な課題といえるだろう。
図5 活用した産後ケアや育児制度(MA、生後の子をもつ女性 n=740)
⑥ ママたちが求める「産後ケアホテル」とは
最後に、末子妊娠中の被験者(n=598)に産後ケア施設に期待することを聞いた結果が図6である。「良質な睡眠の確保」が64.55%と最も多く、「赤ちゃんのお世話全般」が56.19%、「美味しい食事」が54.52%であった。ママ自身が健康であることが一番大切なことであり、母体の回復をしっかりサポートできる施設が求められている。加えて、自宅に帰ってからもスムーズな育児が行えるような指導・サポートと育児を楽しむヒントを提供できると、ママたちの期待により応えられることになるだろう。
図6 産後ケア施設に期待すること(MA、妊婦n=598)
5.おわりに
産後ケアホテルの認知率は約70%である一方、利用率は2%弱という結果となった。利用しなかった理由は「利用料金が高い」「近くに産後ケアホテルがない」という回答が多く利用へのハードルは高そうだ。
出産後すぐ向き合わなければならない「育児」。特にここ3年はコロナ禍でママパパ学級が中止になったり、他のママと育児について話をする機会も少ないなかで、ママたちが慣れない育児に孤軍奮闘したことが容易に想像できる。また「産後ケアホテル」に限らず、里帰りやパートナーの育児休業など、産後ケアや育児制度を活用できなかったママがたくさんいることもわかった。
敷居の高いイメージのある「産後ケアホテル」だが、自治体の運営や補助により利用しやすい産後ケアホテルもある。今後は宿泊施設側にも、ママパパがワンチームになって子育てをスタートする「子育てキックオフ旅行」など、産後のママと赤ちゃんが安心して泊まれるプランなどの展開を期待したい。
(コズレ子育てマーケティング研究所 惣宇利)
【出典の記載についてのお願い】
調査結果を利用する際は出典を記載してください。出典の記載例は以下の通りです。
出典:「産後ケアホテルの利用実態に関する調査(株式会社コズレ)」
https://cozre.co.jp/11614/
(子育てマーケティング研究所 http://www.cozre.co.jp/blog/)
(cozre[コズレ]マガジン http://feature.cozre.jp/)