1. はじめに
日本列島を襲う大型台風による甚大な被害が度々もたらされるなか、2019年10月12日の台風19号が再び東日本を襲ったことは記憶に新しい。台風上陸の前日には、都心部でも「ペットボトルの水」「パン」「カップ麺」等が備蓄の買い占めにより店頭から姿を消した。また、河川の氾濫、土砂災害を受けた地域では、水道・電気・ガスなどの生活インフラの停止は数週間にも及んだ。
東日本大震災以降、国内でも「液体ミルクの認可・販売動向」が注視されていたが、乳幼児のいる世帯や自治体での備蓄、救援物資としての提供の可能性を背景として、先発商品として2019年3月より江崎グリコの乳児用液体ミルク「アイクレオ赤ちゃんミルク*¹」が発売、それを追うように4月には「明治ほほえみ らくらくミルク*²」の販売が開始された。
そこで本レポートでは、発売から1年弱経過し、現在授乳中(生後0~12ヶ月)の子を持つママの生活や育児の状況、意識を鑑みつつ「液体ミルクに対する意識」が、どのように変化したのかを明らかにし、それらを踏まえ企業(メーカー)が液体ミルクを普及させるにあたり、どのような点に留意すべきかを明らかにする。
なお、本調査は令和元年台風19号により、「防災」・「備蓄」に対する意識が高まっていた2019年10月17日より実施されたものである。
*¹「アイクレオ赤ちゃんミルク」(江崎グリコ)
紙パック、125ミリリットル。哺乳瓶などに移し替えて授乳、未開封常温で6ヶ月保存可能。税別200円。
*²「明治ほほえみ らくらくミルク」(明治)
スチール缶入り、240ミリリットル、哺乳瓶などに移し替えて授乳、未開封常温で1年間保存可能。税別215円。
2.調査
調査主体:コズレ子育てマーケティング研究所
調査方法:インターネット・リサーチ
調査対象:現在授乳中(生後0~12ヶ月)の子を持つママ
第3回調査期間:2019年10月17日(木)~2019年11月1日(金)
有効回答者数:1,729名
(前回)第2回調査期間:2019年4月4日(木)~2019年4月18日(木)
有効回答者数:2,470名
(前々回)第1回調査期間:2018年12月28日(金)~2019年1月7日(月)
有効回答者数:1,073名
3. トピック
① 認知
0歳児を持つ被験者における「液体ミルク」の認知はこの1年で57.49ポイント拡大。
調査① (ある程度)知っている23.02%
調査② (ある程度)知っている67.45%(+44.43ポイント)
調査③ (ある程度)知っている80.51%(+13.06ポイント)
② 使用実績
0歳児を持つ被験者における「液体ミルク」の使用実績は21.17%。
調査① 0.75%
調査② 5.59%(+4.84ポイント)
調査③ 21.17%(+15.58ポイント)
③ 利用意向
利用意向も認知度同様に上昇している。
調査① (どちらかと言うと)使用してみたい 43.25%
調査② (どちらかと言うと)使用してみたい 62.11%(+18.86ポイント)
調査③ (どちらかと言うと)使用してみたい 67.90%(+5.79ポイント)
とくに、「ぜひ使用してみたい」の伸びが顕著(調査①15.94%→調査③33.60%)である。
④ 使用したいシーン
「災害時などの緊急時(64.94%)」が最も多くなった。また、全被験者の97.40%が液体ミルクに対して「災害時の授乳に有用である」ことを望んでいる。
4. 結果・考察
1.認知
0歳児を持つ被験者における「乳児用液体ミルク」の認知度は、「(ある程度)知っている」が80.51%という結果になった。その内訳は、「詳しく知っており使用している、または使用したことがある」21.17%、「詳しく知っているが使用したことはない」21.40%、「ある程度知っている」37.94%である。
※「(ある程度)知っている」=「詳しく知っており使用している、または使用したことがある」+「詳しく知っているが使用したことはない」+「ある程度知っている」
また、過去2回調査と比較すると、その普及スピードの速さは以下のとおり一目瞭然である。
●「乳児用液体ミルク」の認知度 全3回調査推移
2019年1月 第1回調査 (ある程度)知っている23.02%
2019年4月 第2回調査 (ある程度)知っている67.45%(+44.43ポイント)
2019年10月 第3回調査 (ある程度)知っている80.51%(+13.06ポイント)
2.使用実績
とくに注目したいのは、「詳しく知っており使用している、または使用したことがある」21.17%である。
●「詳しく知っており使用している、または使用したことがある」回答者の推移
2019年1月 第1回調査 使用したことがある0.75%
2019年4月 第2回調査 使用したことがある5.59%(+4.84ポイント)
2019年10月 第3回調査 使用したことがある21.17%(+15.58ポイント)
発売からわずか半年で2割超の使用実績があることが明らかになった。
3.利用意向
利用意向では、「ぜひ/どちらかと言うと使用してみたい」が67.90%と、全体の2/3の被験者が利用に前向きであることがわかった。
全3回の結果推移を見ると、利用意向も認知度の向上とともに上昇していることがわかる。とくに、ぜひ使用してみたい(調査①15.94%→調査③33.60%)の伸びが顕著である。
●「乳児用液体ミルク」の利用意向 全3回調査推移
調査① (どちらかと言うと)使用してみたい 43.25%
調査② (どちらかと言うと)使用してみたい 62.11%(+18.86%ポイント)
調査③ (どちらかと言うと)使用してみたい 67.90%(+5.79%ポイント)
※「(ぜひ)使用してみたい」=「ぜひ使用してみたい」+「どちらかと言うと使用してみたい」
4.使用したくない理由
次に前問で「(どちらかというと)使用したくない」と回答した被験者にその理由を聞いた。
「母乳中心」の被験者グループにおいて最も多かった理由は「母乳で育てたいから(49.00%)」で、次いで多いのが「価格が割高に感じるから(11.00%)」であった。
※「母乳中心」=「完全母乳」+「母乳とミルクを併用(母乳中心)」
一方、興味深いのは、日頃から乳幼児用ミルクを使用している「ミルク中心」の被験者グループにおいて最も多かった理由が「価格が割高に感じるから(28.00%)」であり、次いで「液体ミルクについてよく知らないから(20.00%)」ということである。
※「ミルク中心」=「完全ミルク」+「母乳とミルクを併用(ミルク中心)」
母乳中心の被験者グループと比較すると、ミルク中心の被験者グループは、液体ミルクに対して割高感を強く感じており、かつよく知らないということが、乳幼児用ミルクが日常使いに至らない要因になっていることがわかる。
こうした消費者に対して、「お出かけや旅行時の荷物が減る」など具体的な使用シーンでのメリットを提示し、粉ミルクにない付加価値の訴求を行うことが今後より重要になってくるであろう。また、「液体ミルクをよく知らない」という消費者に対しては、産院等でサンプリングを提供するなど、早期から関心を持つ機会を創出し、「液体ミルク」への理解を得ることが重要になると考える。なお、その他の主な理由としては、ミルクアレルギーが挙げられた。
5.使用したいシーン
次に、「使用してみたい」と回答した被験者に、「液体ミルク」をどんな場面で使用したいかを聞いた。最も多かったのが「災害時などの緊急時(64.94%)」、次いで「夫や家族などに預けて授乳してもらうとき(12.16%)」、「外出する直前などで急いでいるとき(8.55%)」となった。この結果から、「液体ミルク」=「災害時の特別なもの」との認識が非常に強いことがわかる。
また、全被験者に対して「乳児用液体ミルク」を購入すると想定した際に、どのようなことを望ましいと考えるかを聞いた。その結果、「災害時の授乳に有用である(97.40%)」、「長期保存が可能である(92.54%)」を望ましいと考える割合が高く、前問の使用シーン同様に、「災害時の特別なもの」との認識が高いことがわかる。
こうした認識が消費者に根付いた背景として、災害時の救援物資として2018年7月西日本豪雨の被災地において有効活用されたというケースや、2018年9月に発生した北海道地震では「国内で使用例がない」「衛生管理が難しい商品」との理由で北海道庁が各自治体に液体ミルク使用の自粛要請を行っていたというケースがニュースになり、その有用性と許認可の動向がたびたびメディアでも取り上げられたことが一因と考えられる。
一方で、「深夜の授乳」や「起床から就寝前までの授乳」等、自宅内での日常使用を望む割合は他の項目より低く、「液体ミルク」=「調乳時間が不要で、育児をもっと便利にするもの」という認識が根付くまで、いくつかのハードルが存在すると思われる。
5. おわりに
本レポートでは、現在授乳中(生後0~12ヶ月)の子を持つママの、2019年10月時点における「液体ミルクに対する意識」を調査するとともに、発売から約半年が経過し、メーカーがどのような取り組みを行い、消費者の意識がどのように変化したかの推移に注目した。最後に、各社の現状取組みと、今後、育児をもっと便利なものにするために液体ミルクを販売するメーカー側が行うべき方向性を記す。
(1)江崎グリコ「アイクレオ赤ちゃんミルク」の取り組み
江崎グリコは2019年3月、日本で初めての液体ミルク「アイクレオ赤ちゃんミルク」を発売開始し、業界からも大きな注目を浴びた。「アイクレオ」は軽くて持ち歩きやすく、捨てやすい紙パックを採用。1パックの容量は125ミリリットル、賞味期限は6ヶ月となっている。
メーカーの取り組みとして、2019年9月には「防災と子育てに貢献する液体ミルクについての勉強会」を実施。「育児支援・男女共同参画」と「災害備蓄」の観点から液体ミルクの普及に取り組んでいる。
(2)明治「ほほえみ らくらくミルク」の取り組み
明治「ほほえみ らくらくミルク」は2019年4月から販売を開始。保存に強い240ml入りのスチール缶を採用し、賞味期限は1年となっている。
明治では、一般財団法人日本気象協会と協力、「明治ほほえみ防災プロジェクト」を立ち上げ、液体ミルクの防災備蓄の大切さだけでなく、哺乳瓶での授乳が出来ない場合を想定した「紙コップでの授乳方法」の紹介のほか、ローリングストックの手法などの啓発に取り組んでいる。
2019年夏からは、コンビニ大手のローソン、ファミリーマートでも取り扱いを開始。24時間いつでも近くのコンビニで入手可能になったほか、ディズニーリゾート内「ベビーセンター」でも「ほほえみ らくらくミルク」の取り扱いを開始した。
(3)広がる液体ミルク
2019年9月には、NEXCO西日本が同社のサービスエリア・パーキングエリア(以下、SA・PA)で「アイクレオ赤ちゃんミルク」と「ほほえみ らくらくミルク」の取り扱いを開始。同年12月には、新名神高速道路 宝塚北SA イベントスペースにて、江崎グリコ・明治の栄養士を招いて乳児用液体ミルクの体験会を開催した。
(4)液体ミルクは育児をもっと便利にするものになるのか
こうした各社の取り組みを背景に、液体ミルクは発売からわずか半年ほどで8割を超えるママやパパに認知されるようになり、災害備蓄の観点からも非常に有用なものとして多くの消費者に浸透していることがわかった。また、発売当初は使用したいと回答した被験者は4割程度であったが、直近では7割弱にまで推移している。
一方、使用場面については、夜間の授乳や日常使用に使用したいという声が少ないことから、「調乳時間が不要で、育児をもっと便利にするもの」という認識が根付いているとは言い難い状況であることも明らかになった。
今後、液体ミルクをより一層普及させるためには、「液体ミルク」を「特別なもの」から「日常使いするもの」へのシフトチェンジが求められる。それには「いつでも」「どこでも」に加えて、「誰でも」「簡単に」授乳ができることを消費者に認知させることが重要になってくるであろう。
具体的には、「いつでも」「どこでも」の観点から、「災害対応の自動販売機」での販売を行い、24時間手に入る環境を構築すること。そして、「誰でも」「簡単に」の観点からは、飲み残したミルクの廃棄がなくなるよう、月齢に応じた容量展開や、煮沸消毒した哺乳瓶の持ち運びが不要になるといった、移し替えの必要がないパッケージへの転換など消費者に寄り添った商品展開を提案したい。
そして、メーカー側の努力を通じて、「授乳=ママしか出来ないもの」ではなくなり、世のママたちが安心して託児できたり、パパたちが自信を持って授乳できるようになることを期待したい。
子育てマーケットに関する各種調査・コンサルティング・広告メニュー等についてご関心をお持ちいただいた場合にはお気軽にお問い合わせください。
(コズレ子育てマーケティング研究所 惣宇利)
【出典の記載についてのお願い】
調査結果を利用する際は出典を記載してください。出典の記載例は以下の通りです。
出典:「父の日に関する調査(株式会社コズレ)」 http://www.cozre.co.jp/blog/3066/
(コズレ子育てマーケティング研究所 http://www.cozre.co.jp/blog/)
(cozre[コズレ]マガジン http://feature.cozre.jp/)