1.はじめに
新型コロナウイルスのワクチン接種が進むなか、2021年8月17日には、1回以上ワクチンを接種した国民の割合が全体の5割を超えた。政府の発表(※1)によると、8月17日までの接種状況は、1回以上接種者が50.3%、2回接種完了者が38.8%となっている(図1)。
感染拡大や重症化を防ぐワクチンの有用性は認められているが、副反応や体への影響などを心配する声がSNS上でも散見される。
このような状況下で、妊婦や小さなお子さまを持つママたちの接種は進んでいるのだろうか。ワクチン接種に対して、どこで知識を得て、どのような行動をとっているのだろうか。本レポートでは、妊婦および0~1歳のお子さまをもつママたちを対象に、彼女たちのワクチン接種前後の行動について報告する。
※1首相官邸 https://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/vaccine.html
2.調査
調査主体:子育てマーケティング研究所
調査方法:インターネット・リサーチ
調査対象:末子妊娠中および0~1歳の子を持つ女性
調査期間:2021年8月17日(火)~2021年8月23日(月)
有効回答者数:2,165名
3.結果・考察
(1)妊婦のワクチン接種率は16%前後、一方で約4割のパートナーは積極的に接種している
まず初めに、被験者(本人)の接種状況を聞いた。すでに1回以上ワクチンを「接種した」のは、妊娠初期16.81%、妊娠中期17.90%、妊娠後期15.54%、0歳児のママ16.20%、1歳児のママ33.19%となった(図2)。1歳児のママを除く、妊娠期と生後まもない0歳児のママたちは、全世代の接種率と比べて大幅に低い結果となった。
次に前問で「接種していないし、接種予約もしていない」と回答した被験者(n=1,473)に、接種意向を聞いた。前問で最も接種率が低かった妊娠後期を見ると、47.43%(=18.56%+28.87%)もの妊婦が接種を望んでいることがわかった(図3)。
その一因として、とくに妊娠後期は出産が間近に迫っているために、接種の日程を予約しづらい状況にあることや副反応等の胎児に与える影響不安など、何かしらの理由で接種および予約に至っていないことが考えられる。
さらにパートナーの接種状況を聞いた。すでに1回以上ワクチンを「接種した」のは、妊娠初期29.20%、妊娠中期37.96%、妊娠後期43.23%、0歳児34.00%、1歳児31.90%となった(図4)。なかでも、妊娠後期になるにつれて接種率が大幅に上昇している。妊婦が接種することに一定のリスクを感じて敬遠している一方で、母体への感染リスクを避けるためにパートナーが積極的に接種していることがわかる。
なお、接種率が全国平均を下回っているのは、多くの自治体が高齢者の接種を優先しており、子育て世代の接種が遅れていることも一因だろう。
(2)接種を望まない理由は、赤ちゃんに悪影響があると思うから
さらに「接種していないし、接種予約もしていない」と回答した被験者(n=1,473)のうち、「接種を望まない」と回答した被験者(妊婦n=1,280~1歳児のママn=137)にその理由を聞いた。
その結果、妊婦のうち55.47%が「妊娠中に接種すると母体や胎児に悪影響があると思うから」と回答、0~1歳児のママのうち46.72%が「授乳中に接種すると赤ちゃんに悪影響があると思うから」と回答した(図5)。このことから接種を望まないママたちの多くは、副反応のみならず、ワクチンが赤ちゃんに悪影響を及ぼさないか懸念していることがわかった。
(3)接種後の授乳に関する情報源に関して、接種した/する層は「専門機関・研究機関のホームページ」、未接種層はSNSが最も多い
次に、ワクチン接種後の授乳に関する情報源を聞いた。0~1歳のお子さまを持つママのうち「接種済み/予約済み(n=442)」の接種層は、おもに「専門機関・研究機関のホームページ(21.95%)」から情報を取得しているのに対し、「未接種/予約なし(n=784)」の未接種層は「SNS(21.30%)」から情報を取得している人が最も多い結果となった(図6)。
未接種層では、「専門機関・研究機関のホームページ」を情報源としたのは9.31%と、接種層よりも12.63ptも低くなった。また、「かかりつけの小児科医・産婦人科医」を情報源としたのは接種層では19.00%、未接種層では13.90%と、こちらも同様に5.10pt低くなった。こうしたことから、専門家などの信頼できる情報源から正しい情報が得られることが、接種の後押しになっているのかもしれない。
一方で、SNSでは関連性の高い情報が紐づいて表示されるので、それらが誤った情報であったとしても、あたかもそれが多数意見のように見える危険性もはらんでいる(もちろん、SNS上の情報には信頼性の高い情報も多く存在するが)。
インターネット上でのワクチン接種に対する誤った情報への接触を防ぐため、IT大手各社ではワクチンデマに対する取り組みを強化している。国内では、Yahoo!JAPANが2021年8月4日に「新型コロナワクチンに関する誤情報やデマを抑止するための Yahoo! JAPANの取り組みについて」(※2)を開示し、信頼性の高い情報を発信し、ユーザーの不安解消に努めるなどの取り組みを行っている。
※2 Yahoo!JAPAN https://about.yahoo.co.jp/pr/release/2021/08/04a/
(4)ワクチン接種後、3割のママはそれまでと異なる授乳行動をとる
では、ワクチン接種にあたって、ママたちは実際にどのような準備をし、どのような行動をしたのだろうか。ここからは、主に授乳期である0歳の子をもつ「接種済み/予約済み(n=336)」の接種層のママたちに質問をした。
その結果、おもに「子どものお世話をする人の確保」とあわせて、「キューブ・液体ミルクの購入(7.44%)」、「哺乳瓶での授乳の練習(7.14%)」のほか、「卒乳・断乳(2.08%)」を選んだママたちもいることがわかった(図7)。
次に前問の被験者のうち、完全母乳または母乳とミルクを混合で授乳している層(n=243)に対して、ワクチン接種後にどのように授乳を再開したか/する予定かを聞いた。その結果、「とくに搾乳はせず、そのまま母乳を飲ます(70.37%)」が最も多い結果となり、多くは母乳への影響の有無を納得した上で接種したと考えられる(図8)。
一方、残りの約3割は、「時間を空ける」、「搾乳する」、「卒乳・断乳」など、普段と異なる授乳行動を取ることがわかった。また、簡単に調乳できるキューブ型や液体ミルクなどを取り入れている点も興味深い結果である。
(5)「接種したから安心」ではなく、接種した人ほど慎重
最後に直近の行動変化について、接種済みの0歳の子を持つママ(n=161)と、未接種/予約なしの0歳の子を持つママ(n=658)を比較した。その結果、いずれも上位で「祖父母に子どもを会わせる機会増(接種済み21.74%、未接種25.68%)」と回答した。これは、自身が接種する・接種しないよりも、高齢者の予防接種が進んだことによる影響と考えられる。
次いで「育児用品を店頭で選ぶ機会増」では、接種済みの被験者グループでは11.18%、未接種の被験者グループでは22.64%と、未接種ママたちの方が、11.46ptも多く店頭に足を運んでいることがわかった。
同様に他の項目においても、「買い物に出かける機会増(+2.89pt)」「外出する機会増(+1.86pt)」「県外移動を含むレジャーの機会増(+1.06pt)」「外食する機会増(+0.85pt)」と、全体的に未接種のママたちの方が活動的であることがわかる。
このことから、接種済みの被験者グループは、接種したから安心だと思わずに感染予防に対して慎重であると考えられる。また、未接種の被験者グループは、外出を伴う活動を行う割合が高いことがわかった。
4.おわりに
コロナ禍で妊娠・出産を迎えたママパパにとって、新型コロナウイルスと向き合う子育てが日常となってしまった。連日のように増え続ける感染者数と、医療体制のひっ迫は、お腹の赤ちゃんや乳幼児の小さな命を守るママパパにとって、大きな不安になっていることだろう。
では、今私たちができることは何であろうか。それは、「正しい情報を得ること」「体調を考慮したうえでワクチンを接種するか・しないかを検討すること」「周囲を含め引き続き感染予防に努めること」だろう。
現状、学童期の子どもたちは、外での活動を制限され、学校行事も中止になるなど、我慢の多い生活をおくっている。今の赤ちゃんたちが活発に遊び始めるころには、コロナが収束し、元気に外で走り回れるよう、我々大人1人1人が、出来ることから感染予防に努めたい。(子育てマーケティング研究所 惣宇利)
【出典の記載についてのお願い】
調査結果を利用する際は出典を記載してください。出典の記載例は以下の通りです。
出典:「妊婦やママたちの新型コロナワクチン接種状況と現状(株式会社コズレ)」
https://cozre.co.jp/6787/
(子育てマーケティング研究所 http://www.cozre.co.jp/blog/)
(cozre[コズレ]マガジン http://feature.cozre.jp/)