1. はじめに
「子どもの自己肯定感を向上させるには、褒めることが大切だ」ということは、多くのママパパに浸透してきている考えのひとつだろう。では、日々、子育てをしているママの自己肯定感は、誰が、どのように向上させることができるのか。そんな子育て中ママの自己肯定感の実態を明らかにするとともに、ママが認められたいと思っている相手、自己肯定感を向上させる方法について調査した。
2. 調査
調査主体:コズレ子育てマーケティング研究所
調査方法:インターネット・リサーチ
調査対象:妊娠中または子どもがいるママ
調査期間:2019年9月6日(金)~2019年9月9日(月)
有効回答者数:1,514名
3. トピック
- 子育て中ママの中で、自己肯定感が高いグループに属するママは15%、妊婦と比較すると3ポイント低い
- 子育て中ママに妊娠前の自分と比較してもらった結果、31%のママが「自己肯定感が高くなった」と回答
- 子育て中ママにとって自己肯定感が下がると感じるときは、「子育てがうまくいかないとき」が64%で最多
- 子育て中ママが、褒めてほしい/認めてほしいと思う相手は、パートナー(パパ)が90%で最多
- 自己肯定感が高いグループに属するママは、低いグループと比べて、会社の同僚や上司に褒めてほしいと思う割合が高い
- 自己肯定感が低いグループに属するママは、高いグループと比べて、子ども・ママ友に褒めてほしいと思う割合が高い
- 子育て中のママの自己肯定感を向上させるには、家族(パートナー(パパ)や子ども)に褒めてもらい必要とされることである
4. 結果・考察
今回の調査にあたり、「Mimura&Girffiths(2007)による日本語版RSES-J自尊感情を測定する尺度」 を使用した。日本版RSES-Jでは、以下の10の質問項目のうち4段階で評価を行い、自己肯定感の高低基準は、「30点以上を高い、20点以下を低い」とされている。
10の質問項目は以下である。
- 私は、自分自身にだいたい満足している。
「1=強くそう思わない」「2=そう思わない」「3=そう思う」「4=強くそう思う」 - 時々、自分はまったくダメだと思うことがある。
「4=強くそう思わない」「3=そう思わない」「2=そう思う」「1=強くそう思う」 - 私にはけっこう長所があると感じている。
「1=強くそう思わない」「2=そう思わない」「3=そう思う」「4=強くそう思う」 - 私は、他の大半の人と同じくらいに物事がこなせる。
「1=強くそう思わない」「2=そう思わない」「3=そう思う」「4=強くそう思う」 - 私には誇れるものが大してないと感じている。
「4=強くそう思わない」「3=そう思わない」「2=そう思う」「1=強くそう思う」 - 時々、自分は役に立たないと強く感じることがある。
「4=強くそう思わない」「3=そう思わない」「2=そう思う」「1=強くそう思う」 - 自分は少なくとも他の人と同じくらい価値のある人間だと感じている。
「1=強くそう思わない」「2=そう思わない」「3=そう思う」「4=強くそう思う」 - 自分のことをもう少し尊敬できたらいいと思う。
「4=強くそう思わない」「3=そう思わない」「2=そう思う」「1=強くそう思う」 - よく、私は落ちこぼれだと思ってしまう。
「4=強くそう思わない」「3=そう思わない」「2=そう思う」「1=強くそう思う」 - 私は、自分のことを前向きに考えている。
「1=強くそう思わない」「2=そう思わない」「3=そう思う」「4=強くそう思う」
① 妊婦と子育て中ママの自己肯定感の比較
子育て中ママ(n=766)の自己肯定感の割合をみてみると、高いグループに属するママは15%、低いグループに属するママは17%。妊婦と比較してみると、高いグループに属する割合は3ポイント低く、妊婦の自己肯定感の方がやや高いという結果になった。
② 妊娠・出産を経験すると自己肯定感は向上するか
➀では子育て中ママと妊婦といった異なる2つの集団の自己肯定感の比較をしたが、つぎに、子育て中ママを対象に「妊娠前に比べて自己肯定感は高くなったと思うか」という同一集団に対し、時間軸をずらした質問に回答してもらった。
その結果、「非常にそう思う」(7%)、「そう思う」(24%)、「どちらとも言えない」(46%)、「そう思わない」(18%)、「全くそう思わない」(5%)であった。
31%のママが「高くなった」と回答(「非常にそう思う=7%」+「そう思う=24%」=31%)していることから、妊娠や出産が女性の自己肯定感を向上させるきっかけとなるかもしれない。
その理由は、自己肯定感尺度を測る10の質問内から想像できる。質問項目の中でも、「私には誇れるものが大してないと感じている」「時々、自分は役に立たないと強く感じることがある」の二つに注目してその理由を探ろうと思う。
まず、妊娠前は「大して誇れるものがない」と感じていた女性でも、妊娠し自分のお腹の中に命を授かる。それは多くの女性にとって最大の「誇れるもの」になりうる。さらに、妊娠前は「役に立っていない」と強く感じていた女性でも、妊娠期間を経て出産すると、出産した瞬間から「自分は誰かの役に立っているのか?」という疑問すら抱く時間もないほど、怒涛の子育てが始まる。つまり、「役に立たざるを得ない」状況において、「自分は役に立たない」とは感じなくなるのではないだろうか 。
つまり、子どもの存在や子育てという状況そのものが、ママ自身の自己肯定感を向上させてくれるのかもしれない。
③ 子育て中に自己肯定感が下がると感じるとき
とはいえ、子育ては大変である。いくら子どもが誇らしい存在とはいえ、子育て中に自己肯定感が下がってしまうこともあるだろう。子育て中のママに、「自己肯定感が下がるとき」を聞いてみた。結果、上位3項目は、「子育てがうまくいかないとき」(64%)、「パートナー(パパ)と喧嘩したとき」(44%)、「家事がうまくいかないとき」(44%)であった。
ここで注目したいことは、「子育てや家事がうまくいかない」というのは、本人の主観的な評価だということである。勉強や仕事のように「テストで90点を取った」や「給料が20%アップした」という目で見える評価がないため、他人からみたら「よくできているね!」と言われない限り、思い込みで「できていない」と落ち込んでいる可能性もある。
そんな心境の中、最も身近にいる良き理解者であるべきパートナー(パパ)と子育てや家事を議題に挙げて喧嘩にでもなろうものなら、ママの自己肯定感は、ますます下降するのは納得である。パートナー(パパ)にできることは、(仮にうまくいっていないなと感じていても)「いつもがんばってくれてありがとう」という感謝の言葉をかけてあげることだろう。「よくできているね!」だと上から目線になってしまうかもしれないので要注意である。
④ 子育て中のママが褒めてほしい/認めてほしい相手
「自己肯定感を向上させるには、褒めることが大切である。」これは、冒頭でも述べたとおり、子どもの自己肯定感を向上させる方法のひとつとして浸透してきている考えである。
では、ママの自己肯定感を向上させるためにも、誰かに褒めてもらうことが有効にならないだろうか。そして、もし、褒めてもらえるなら誰から褒められたいのだろうか。「それはパートナー(パパ)だ!」と誰しもが真っ先に答えるだろう。実際、90%ものママがパートナー(パパ)に、褒めてほしい/認めてほしいと回答している。続いて、親(56%)、子ども(53%)、友人(37%)、義理の親(30%)、会社の上司(25%)、会社の同僚(20%)、ママ友(15%)という結果になった。
⑤ 自己肯定感が高いママ達と低いママ達の「褒めてほしい/認めてほしい相手」の比較
では、褒めてほしい/認めてほしい相手に、自己肯定感の高いグループに属するママと、低いグループに属するママとの差異はあるだろうか?
<自己肯定感の高いグループのほうが、とくに割合が高くなった項目>
- 会社の上司に褒めてほしい/認めてほしいと思う割合は、高いグループ(32%)の方が、低いグループ(19%)より高くなった。
- 会社の同僚に褒めてほしい/認めてほしいと思う割合は、高いグループ(26%)の方が、低いグループ(14%)より高くなった。
<自己肯定感の低いグループのほうが、とくに割合が高くなった項目>
- 子どもに褒めてほしい/認めてほしいと思う割合は、低いグループ(60%)の方が、高いグループ(52%)より高くなった。
- ママ友に褒めてほしい/認めてほしいと思う割合は、低いグループ(21%)の方が、高いグループ(16%)より高くなった
このことから、褒めてほしい相手はママがおかれている生活環境に影響を受けるのではないか。
また、自己肯定感が高いグループは、低いグループに比べ、就労している方が多い可能性が考えられる。自己肯定感が低いグループは、高いグループよりも、子どもやママ友と過ごす時間が長いのかもしれない。
ここでは、自己肯定感の低いグループが高いグループより回答率が上回った「子ども」について推察してみたい。ママが子どもに褒めてもらいたい、とは一体どういうことなのだろうか?
言葉が話せたり手紙を書いたりできる年齢の子どもであれば納得するが、 仮に、褒めてもらいたい相手が0歳児で意思表示をはっきりする子どもだとしよう。ママを言葉で褒めることは不可能であり、欲求を伝える手段は泣くこと、自らの意思を通す手段は泣くことである。ましてや、ママを褒めるどころかママを困らせるばかりである。
どうやって眠るかわからないと泣き、お腹がすいたと泣き、おむつが汚れていると泣き、ママがそばにいなくてさびしいと泣く。ママに見せる表情のほとんどが泣き顔である。
本人からしてみたら言葉を話しているのと同じことなのであるが、ママたちは子どもの泣き顔はなるべく見たくないものである。そんな時、ママたちはふと何を思うだろうか?「お願いだからから泣き止んで」「笑顔を見せて」ではないだろうか?
あれこれ泣き止ませる方法を試してようやく寝付いた時の安らかな表情、時折見せてくれる笑顔を確認したときに「褒められた!」という、それに似た満足感が得られるのかもしれない。
そんなママを褒めるのと同じ効果があるのかもしれない赤ちゃんの寝顔や笑顔も、自己肯定感の低いママは高いママに比べ求めるのだろう。
5.まとめ
最後に、子育て中ママの自己肯定感を向上させるにはどうしたらよいのだろうか?子育て中のママから寄せられた「どのようなときに自己肯定感が高まると感じるか?」という設問に対する自由回答から、合わせて探ってみたいと思う。
<自由回答の内容>
- 子どもや夫に必要とされていると感じる時。授乳している時や抱っこを求められている時など、自分でないとその子の欲求を満たしてあげられないと感じる時。
- 育児、家事、仕事の両立が上手くやれている自身がないが、人にこれでいいよ、十分頑張っているよと言われた時。
- 子どもが笑ってくれたり、新しくできることが増えたりすると、子育てが上手くできている気がして嬉しくなります。
- 仕事や育児などがうまくいったりほめられたりすると自分のなかで達成感ができいろいろ高まる感じがあります
- 自身の体調も良く、赤ちゃんのお世話かつ上の子と遊びながら家の掃除と料理ができた時に「よくやった!頑張ったなー!」と実感できると自己肯定感が高まったように感じると思います。
- ありがとうとか人に感謝されるときや、自分を必要とされていることがはっきりとわかったとき。また思っているだけでなく、きちんと言葉で伝えてもらえたとき。
本調査結果と、これらの自由回答から導き出される結論として、子育て中ママの自己肯定感を高める2つの方法は、①家族に褒められ認められること ②子どもの笑顔を見ること であろう。
子育て中は、ママの自己肯定感は上がったり下がったりの繰り返しである。しかし、子育て中ママの自己肯定感を向上させられるのも「まさに子育て中」なのである。それは自力で生み出す達成感だったりパートナー(パパ)から言われる感謝の言葉だったりする。
そして、自分を必要としてくれる子どもこそ、自己肯定感を向上させてくれる最愛の存在である。たとえ、24時間体制で授乳やおむつ替えをしなくてはならなくとも、離乳食を床にぶちまけたとしても、イヤイヤしてスーパーマーケットの床にひれ伏して1時間ぐずっていたとしても、「褒める」と同様の効果をもたらしてくれる「笑顔」によって、下降気味だったママの自己肯定感は一気に向上するのである。
引用・参考文献
Mimura, C. &Griffiths, P. A Japanese version of the Rosenberg Self-Esteem Scale : Translation and equivalence assessment. J Psychosomatic Res, 62, 2007, 589-594.
(コズレ子育てマーケティング研究所 山内)
【出典の記載についてのお願い】
調査結果を利用する際は出典を記載してください。出典の記載例は以下の通りです。
出典:「子育てママの自己肯定感に関する調査(株式会社コズレ)」 http://www.cozre.co.jp/blog/2703/
(コズレ子育てマーケティング研究所 http://www.cozre.co.jp/blog/)
(cozre[コズレ]マガジン http://feature.cozre.jp/)