1. はじめに
少子化が進む中でも、子育て世帯にとって自動車は生活に欠かせない存在であり、自動車市場において依然として重要なターゲット層である。買い物や保育園・習い事への送迎、週末のレジャーなど、日常のさまざまなシーンで車の利便性が求められており、とりわけ乳幼児期の子どもを持つ家庭ではその必要性が一層高まる。そのため、車の新規/追加購入、買い替えなどのニーズが発生しやすいといえる。
本記事では、コズレが実施した『妊娠以降の子育て世帯「自動車」購入 市場調査2024』の結果を中心にその他のコズレ調査なども活用しながら、保有率、購入タイミング、購入車種、購入時の情報収集チャネル、販売店選びの実態などを分析する。また、これらの実態を踏まえ、自動車メーカー・販売店が子育て世帯にアプローチする際のマーケティング戦略についても提案していく。
本ブログにおいて掲載しているデータは調査の一部である。「5.調査項目」記載のうち、掲載していないデータについては、プロモーション等のご提案の過程でお伝えをしていくので、お問合せいただきたい。
2. 調査
調査主体:コズレ子育てマーケティング研究所
調査方法:インターネット・リサーチ
調査対象:長子が1歳以上のコズレ会員
調査期間:2024年10月15日(火)~2024年12月19日(木)
有効回答者数:159名
3.結果・考察
自動車保有・購入の傾向
(1)子育て世帯の自動車保有率
子育て世帯の自動車保有率は非常に高く、コズレ調査(『妊娠以降の子育て世帯「自動車」購入 市場調査2024』)によると約7~8割前後に達している。一般財団法人自動車検査登録情報協会の発表では(2025年8月公開)、全国の世帯当たり自家用乗用車普及台数は1世帯あたり1.025台と1世帯に1台以上の計算になっており、子育て世帯に限ってみると保有率は更に高いと考えられる。
長子1歳以上の子育て世帯では「自家用車を保有している」割合が7割以上にのぼった。また、妊娠以降に「車を買い替え・購入した」人は約33%、「現在検討している」人は約20%で、合わせて過半数となり、子どもを持つことが車購入の大きなきっかけになっていることがわかる。背景には、ベビーカーやチャイルドシートの準備、実家への帰省、家族の送り迎えなど、出産前後で移動ニーズが一段と高まる事情がある。出産というライフイベントが従来の買い替えサイクルを早め、新たな車の購入を促している。
(2)購入検討のタイミング
実際にいつ購入に至るかを見てみると、購入検討開始時期は「妊娠中」が最も多く、出生後は月齢が上がるにつれて徐々に減少し、実際に購入するのは「妊娠中~1歳」が多いという結果となった。
多くの家庭では妊娠が判明してから乳児のうちにファミリーカーを購入しており、出産を待たず早めに動くケースも少なくない。「子どもが生まれてから考えよう」と思っても、実際は育児に追われて後回しになりがちであり、必要性がはっきり見えてくる出産直後に購入を決断する流れが多いことがわかる。検討開始から購入までの検討期間は「1〜3ヶ月」が約46%で最多であり、比較的短期間で購入を決める傾向がうかがえる。
(3)購入車種の傾向とシェア
子育て世帯に人気の車種はコンパクトカーやミニバンなど、明確な偏りがみられる。前述のコズレ調査では「ミニバン」が4割強でトップ、次いで「ワンボックス」「軽自動車」「SUV」が続いている。
ミニバン人気の理由は、室内空間が広くチャイルドシートの着脱がしやすいこと、大人数で乗れることなどファミリー層の使い勝手の良さにある。都市部では駐車場事情や維持費からコンパクトカーや軽自動車を選ぶケースもあるが、郊外ではミニバンへの買い替えを検討するのが一般的と言えるだろう。
購入されたメーカーのシェアでは国内大手ブランドが上位を占めており、検討率・購入率ともに「トヨタ」が最上位で、次いで「ホンダ」「日産」と続く。検討段階では4位に「マツダ」、実際の購入では4位に「スズキ」がランクインした。トヨタのシェアが厚いのは、同社がミニバンやSUVなど子育て世帯向けの車種ラインナップを豊富に揃えていることが関係していると考えられる。ホンダや日産も独自のミニバン(ステップワゴン、セレナ等)を展開し一定の支持を得ているほか、軽自動車市場で強いスズキは子育て世帯でもセカンドカーや地方のコンパクト需要に応えている。
(4)新車と中古車の購入傾向と価格帯
次に新車か中古車かという点に絞って見てみると、購入割合は双方50%ずつ分け合う結果になった。やはり子どもを乗せることを考えると「新車の方が安心」と考える層がいる一方で、教育費や住宅費が増えるタイミングだけに「中古で費用を抑えたい」と考える層が拮抗していると思われる。
購入価格帯を見ると「200万~300万円」が約33%で最多、次いで「200万円未満」と「300~400万円」が続いている。実際ハイグレードタイプを除き、トヨタのシエンタやノア、日産セレナ、ホンダフリードなどファミリー層に人気の車は200~300万円台に集中している。何かと出費が増える子育て世帯では「低燃費で維持費が安いこと」が重要であり、この点でもハイブリッド車や税金の安い軽自動車が選好されている。
以上のように、子育て世帯の自動車購入傾向をまとめると「妊娠~乳幼児期」に「ミニバン」を中心とした実用性の高い車を、「200~300万円程度」の予算で購入する層が大きなボリュームゾーンと言える。このセグメントをしっかり捉えることが、自動車メーカー・販売店にとって重要となる。
購入行動の特徴
(1)カーディーラー訪問実態にみる購入検討時期の特徴
上記のように、子育て世帯の多くは妊娠中から出産直後にかけて車の購入を検討・実行する。この節では、そうした購買行動の詳細な特徴について見ていく。
コズレ調査(『妊娠以降の子育て世帯「自動車」購入 市場調査2024』)によると購入検討開始時期は「妊娠中」が最多、次いで「出産直後~1歳」までが主なゾーンとなっている。また、妊娠層と子育て層のカーディーラー訪問実態について調査したコズレのデータ(『妊娠層と子育て層の比較
カーディーラーへの訪問実態調査』2025年)によれば、妊娠中はディーラーでカタログを集めたり展示車を見て回ったりと情報収集に努めるママパパが多く、出産を経て生活が落ち着く頃に「やはり車が必要」という判断で購入に踏み切っている。このことから子育て世帯の購入検討の特徴として、「妊娠中はよく検討し、出産を機に購入を決断する」という、購入検討段階と最終決断・購入実行の段階が時間的に分かれている点が挙げられる。
(2)妊娠層、子育て層におけるディーラーへの訪問行動
近年、消費者が実際に足を運ぶ販売店の数は減少傾向にあり(「自動車ディーラー業界の現況と今後の方向性」—株式会社ひろぎんホールディングス経済産業調査部)、車購入を目的にディーラーを複数訪問する行動も昔に比べて減少していると言われている。この傾向は子育て世帯でも顕著であり、コズレ調査(『妊娠層と子育て層の比較 カーディーラーへの訪問実態調査』2025年)では実際に訪問した販売店数は「1か所」のみが約42%で最多、次いで「2か所」約33%、3か所以上訪問する人は1割強にとどまっている。このことから最初に来店した店で契約に至る可能性が高く、販売店側の目線から考えると「いかに自店を一番最初の訪問先に選んでもらうか」が極めて重要である。
また、購入者を対象に「過去に車を購入した販売店を再び訪れたか」を聞いた質問(『妊娠以降の子育て世帯「自動車」購入 市場調査2024』)では、約50%が過去購入店に再訪したと回答。しかし実際にそのテンポで今回も購入した割合は全体の36%(=再訪者のうち72%)にとどまった。逆に言えば約64%は新しく訪れた販売店で購入していることになり、出産というタイミングで新しい販売店・ブランドに乗り換えるケースが多いことがわかる。
これは出産を機にファミリー向けの車種へ転換し、その際に販売店も新規開拓されることを示している。あるいは、以前の担当営業との関係よりも「より子連れで行きやすいお店」や「自宅から近い店舗」などを優先して新しい店舗に行くケースもあるだろう。妊娠・出産は販売店にとって新規顧客を獲得するチャンスであると共に、既存顧客を逃しやすい局面とも考えられるため、既存顧客フォローと新規顧客開拓の双方に力を入れる必要性があるのである。
検討・購入におけるママパパの情報収集チャネル
(1)情報収集チャネルの変化とSNS活用傾向
子育て世帯が自動車を選ぶ際、どのような情報収集チャネルを使っているかも重要なポイントである。現在の30代前後のママ・パパ世代はインターネットリテラシーが高く、SNSも日常的に利用している人が多い。2025年にコズレが行った調査(「妊娠以降の子育て世帯『自動車』購入検討におけるSNS利用実態調査2025」)では、購入検討時にSNSを利用する層は約21%であった。この割合はまだ高いとは言えないが、SNSが自動車購入検討における重要な情報チャネルの一つとして台頭してきていることを示している。
利用しているSNSの内訳を見てみると、最も利用されているSNSはインスタグラムで約69%、次いでYouTubeが約44%となっており、視覚的な訴求力の高いプラットフォームが上位を占めている。このことからママパパたちが自動車の外観や内装、実際の使用感などを画像や動画で確認したいというニーズの高さがうかがえる。特にInstagramは若いママ層の利用率が高く、購買への影響力が大きい媒体といえるだろう。
(2)SNS検索機能の利用とWeb利用
興味深いのは、SNS利用者の約84%がSNS内の検索機能を利用して情報収集している点である。検索される主なキーワードは「車種名」や「口コミ」「レビュー」などが多くを占めており、SNS上には先輩ママ・パパによる愛車の使用感や写真、動画が数多く投稿されている。ママパパにとって「同じ子育て世代の生の声」は信頼度が高く、自動車メーカーの公式発信よりも参考になると感じる消費者も少なくない。
同様に従来型のWeb検索も多くの人が活用しており、そこで得られる兄弟姉妹や友人・同僚など身近な人からのクチコミも根強い情報源となっている。このようにSNSやWebを利用し、事前情報を収集する傾向は非常に強く、EY Mobility Consumer Index(MCI)によるモビリティ分野の傾向と車の購買意欲についての分析(「EY調査、4人に1人はオンラインで自動車を購入、ただしEVへの移行には販売店が不可欠」― EY Mobility Consumer Index、2024年公開)によれば、87%が購入したい車の情報収集にオンラインツールを使用していると回答する一方、61%が販売店で購入したいと答えている。子育て層においてもこのような「情報収集はオンラインで行い、購入候補をほぼ決めてから初めてディーラーに行く」という流れができていると思われる。事前にWebサイト・SNS・YouTubeといったチャネル上でいかに良質な情報にリーチできるか、が購買行動を左右しているのである。
ディーラー訪問行動にみる、購入に至らない理由と来店促進の示唆
(1)子育て層におけるディーラーへの訪問実態
子育て世帯に車のニーズが高い一方で、実際にはディーラーに足を運んでいないママも少なくない。妊娠層と子育て層へのカーディーラーへの訪問実態調査(2025年コズレ調査)では、末子妊娠中の女性のうちディーラー訪問経験が39.68%、末子0歳以上のママでは54.00%という結果が出ている。自動車の保有率(妊娠中68.25%、ママ77.70%)と比較すると、「車は持っているがディーラーに行ったことがない」人が相当数いることがわかる。
ディーラーに行ったことがない理由のうち最も多かったのは「行く目的がないから」(妊娠中31.57%、ママ37.12%)、次いで「車を買う予定がないから」(妊娠中23.68%、ママ20.45%)だった。
注目すべきは、妊娠中の女性では3番目に多かった「営業を受けそうだから」(15.78%)という懸念で、子育て中のママにも7.57%の割合で同様の回答をした人たちがいた。また子育て中のママで相対的に高かったのが「(ディーラーが)どんなところか知らないから」で、15.90%(妊娠中は10.52%)という割合だった。「セールスをかけられそうで不安」「ディーラーに行ったことがなく、どんな雰囲気か分からないので躊躇している」層が一定数いることがわかる。さらに「子ども連れで行きづらい」「授乳やオムツ替えが心配」といった声もあり、こうした要素も含めてディーラーへの心理的な敷居の高さがあると思われる。
(2)ディーラーへの訪問促進の可能性
では、どのような工夫があればディーラーに行ってみたいと思うのだろうか?前述のコズレ調査では「気軽に立ち寄れるような雰囲気がある」という選択肢が妊娠中・子育て中双方のママから人気を集めている。よく見てみると最多の「プレゼントがもらえる」のほか、「子ども向けイベントがある」「授乳室内の設備(おむつ替え台、お湯など)が整っている」などもこの“気軽に立ち寄れる雰囲気づくり”につながる選択肢になっていることがわかる。
4.コズレのデータを活用したデジタルマーケティング戦略の提案
以上の分析とコズレが保有するデータを活用した、デジタルマーケティング戦略の提案例を一部ご紹介する。
(1) ターゲット層の明確化とセグメンテーション
特に購入検討・意思決定が集中する「妊娠~出産直後」の層を主要ターゲットと設定し、さらに細かく妊娠週数や子どもの年齢に応じてセグメントすることで効果的なアプローチを行う。
例
- 妊娠中は安全性重視、乳児期ならベビーカー対応や授乳のしやすさ、幼児期ならチャイルドシート複数搭載のように、適切なタイミングにあわせた施策を実施
- 世帯年収や居住エリアに合わせた広告配信のセグメント設定や販促イベントの招待リスト作成。「妊娠◯ヶ月目のユーザーだけにDM送付」などきめ細かなターゲティングも可能
(2) 訴求軸(メッセージ)の最適化
子育て世帯へのアピールポイントである「安心・安全」「快適・便利」「経済性」の三本柱を中心に訴求。
例
- 安心・安全面:衝突被害軽減ブレーキやバックモニター、チャイルドロック、最新のチャイルドシート固定方式(ISOFIX)対応といった安全装備を強調
- 快適・便利さ:ファミリーカーならではの広い室内空間、シートアレンジの柔軟性、スライドドアの使いやすさ、ベビーカーや荷物が積める収納力などを訴求
- 経済性:「低燃費でガソリン代がお得」「メンテナンス費用が安い(○年間無料点検)」など長期的に見たコストメリットを提示。購入サポートとして、ファイナンスプランや補助制度の情報も提供
(3) 初回来店を促すプロモーション施策
初回来店への誘導は非常に重要な施策である。具体的には以下のようなプロモーションが可能である。
例
- SNS連動キャンペーン:妊娠中~子育て期のユーザーをDMやメールでターゲティングし、試乗体験のInstagramやX(Twitter)投稿プレゼントキャンペーンなどの実施
- デジタル広告×オフライン来店促進:SNS広告・育児情報サイトにクーポン付きバナーを掲載、LINE公式アカウントで来店クーポンを配信など
- ターゲットへの直接的な働きかけ:既存顧客データから出産適齢期夫婦を抽出し、出産祝い+新車案内DMを送付、保険会社・ベビー用品店と連携し、妊娠中の顧客に自動車案内を郵送(クロスマーケティング)など
5.調査項目
●自動車の保有
●妊娠以降の購入
●検討開始時期・実際の購入時期
●検討期間
●ディーラー・販売店の訪問数
●過去購入した販売店への訪問
●過去購入した販売店での購入
●検討したメーカー
●購入したメーカー
●購入した車種
●新車・中古車どちらを購入したか
●購入金額
※本ブログにおいて掲載しているデータは調査の一部。掲載していないデータについては、プロモーション等のご提案の過程でお伝えをしていくので、お問合せいただきたい。
「妊娠以降の子育て世帯「自動車」購入 市場調査2024」DL資料はこちら
6. おわりに
コズレでは、前述でご紹介した事例以外にも子どもの年齢をセグメントしたプロモーションはもちろん、商材の特徴とママたちの購買特性を踏まえたきめ細かいプロモーションのご提案が可能です。
「おすすめのプロモーション」でご提案した
・家族構成
・妊娠週数
・子どもの月齢(年齢)
・世帯年収
・居住地
などの属性でターゲティングして絞り込んだプロモーションに対応が可能です。
なお、上記はあくまで一例ですのでご希望の属性がある場合にはご相談ください。
プロモーションをご検討の際はぜひお問合せください。
株式会社コズレでは、こうした妊娠中のママや子育て中ママのリアルな声をお伝えすると共に、市場動向を明らかにしていきます。
本調査の詳細レポート、及び子育てマーケットに関する各種調査・コンサルティング・広告メニュー等についてご関心をお持ちいただいた場合にはお気軽にお問い合わせください。(株式会社コズレ 早川)
【出典の記載についてのお願い】
調査結果を利用する際は出典を記載してください。出典の記載例は以下の通りです。
出典:『子育て世帯の購買行動をデータで分析|ファミリーカー市場の新常識2025(株式会社コズレ)』https://cozre.co.jp/blog/14728(cozre[コズレ]マガジン http://feature.cozre.jp/)
※コズレでは子育て世代の調査・子育て世代向けマーケティングのコンサルティングを承っております。詳細は下記よりお問合せください。